トリノの友人宅の食卓にときめいた話
イングランドの語学学校の同級生に、イタリアはトリノから来た子が居た。学校で一緒の期間も長かったので、授業も課外活動もたくさんの時間を共有できた。
私がイギリスを経ち、日本へ帰る前にヨーロッパを廻っていたのだが、トリノのご実家へお邪魔させてもらえることとなった。観光スポット巡りやショッピングよりも、現地の方々の暮らしを体験するのが何より楽しい。わくわくだった。
そして、この友人宅での体験は、一生の思い出になった。
トリノの街、なんて美しい
ヨーロッパ周遊の旅程が年末~年始にかけてで、トリノへはなんと1月1日に到着する旅程になってしまった。日本人にとっての年越し~新年というと、離れて暮らしている家族も集合するような1年で最大の行事と言える。そんな日にお邪魔していいのかとそわそわしながらの訪問だったのだが、友人もご家族も温かく迎えてくれた。
聞く話だと、キリスト教圏ではクリスマスが最大の行事で、新年はまあ、ホリデーだよね、くらいの感じらしい。新年といっても、日本人が感じるほどの特別感はなさそうだった。
トリノへは電車で到着した。友人とお父さんが駅まで迎えにきてくれて、そのまま車で街の高いところまで連れて行ってくれた。トリノの街を見下ろせる場所だ。
もう、美しいの一言だった。街のシンボルであるドゥオモ(大聖堂)もみえるし、ヨーロッパらしい建物が並んでいる。ドイツあたりの中欧のかわいい建物よりは、ウィーンでみた貴族の持ち物風の建物が多い。屋根は時を経て少し退色しているが、赤で統一されている。
ローマやフィレンツェ、ベネチアといった有名都市の風景はイタリア旅行の定番だし、テレビや雑誌でよく目にするのだが、トリノに関してはオリンピックのイメージしかなくて、街に何があるとか、正直よく知らなかった。トリノも大変美しい街だ。
しかしイタリアという国は本当にすごい。数都市訪れたが、どの都市も遺跡やらドゥオモといった建築は圧巻だし、古く美しい街並み、それをずっと守ってきたことが感じられる。食べ物は何でも美味しい。
恐れ入りました、という感じだった。
ピザ、ラザニア、トマトとモッツアレラ、エスプレッソ…
友人のおうちは山の上にあり、車で山道を登った。がっつり乗り物酔いをしてしまい、その日の美味しい夕食をあまり頂けなかったことが本当に心残りである。
1月1日なので、新年ならではのディナーが食卓には登場していた。
レンズ豆に豚のソーセージを乗せた焼きものは金運と長寿を願うもので、新年の伝統メニューとのこと。年に1回と思われるメニューが登場する日に居られるなんて、なんて幸運なのだろう。
また、お菓子の盛り合わせも出てきて、ドライフルーツとソフトヌガーなどなど、見慣れないお皿に興味深々だった。モッツアレラとトマト、ハムの串刺しみたいなイタリア感満載のものも。
数日間お世話になったのだが、食事はどれも美味しすぎて感動ものだった。イタリアで食べたものは基本どれも大変美味しかったのだが、友人のおうちで頂く手料理というのは美味しさもさることながら、本当にプライスレスで。
昔ピッツァリアで働いていたというお父さんの手づくりピザやお母さんのラザニア。食後にはエスプレッソやアフォガードを淹れてくれた。
イタリアンのテーブルコーディネート
食べ物の味も素晴らしいのだが、インテリア好きとしてはテーブルクロスや食器、小物などなど、いちいち素敵なお部屋にテンションが上がった。置いてあるもの、出てくるものすべてに興味津々だ。
テーブルクロスなどの布系は基本的に、発色の良い赤が多い。
トマトの国だからか、やはり身近にある色が1番に取り入れられる。
食器なんて、イタリアンにとってはごく普通のものなのかもしれないが、造形が美しかったり、何かしらの工夫がされているところに、美意識の違いを感じる。
少し驚きの気持ちでみていたのが、友人と弟がテーブルクロスを選んでいたこと。今日のテーブルクロスはこれ!なんて、日本人だと強いてインテリア好きな人かこだわりのある人くらいしか言わなそうだが、ものすごくナチュラルに「クロスを選ぶ」という行動を取っていて、部屋を、テーブルを、日常を、「飾る」という感覚が根差しているのだろうと感心した。これもヨーロッパの文化かな、と。
絵は友人宅へ送りました
友人とご家族には本当にお世話になり、胸いっぱいだった。この絵にまつわるエピソードとして、食卓と装飾のことにフォーカスした。書きたいことは他にもいっぱいあるのだが。
絵の中の窓の外の景色は、実際に見た景色だ。山の上のおうちの窓から見た明け方の山。この景色を見せたくて、といってお母さんが窓際へ案内してくれた。友人一家は、このロケーションが気に入って、今のおうちに引っ越したらしい。空の上の方は明るいんだけど、木々の根元のあたりは温かい赤色をしている。
トリノで出会えた、なかなかお目にかかれないような美しい自然の景色にうっとりした。
この文章を書くにあたって、当時の写真を見返している。もう5年も経つ。改めて、友人とご家族にお礼を言いたい。